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大阪高等裁判所 昭和60年(ネ)961号 判決 1985年12月24日

控訴人 株式会社マックブラザーズ

右代表者代表取締役 辰巳肇

右訴訟代理人弁護士 布谷武治郎

被控訴人 ロッテ物産株式会社

右代表者代表取締役 重光武雄

右訴訟代理人弁護士 古沢昭二

原慎一

腰原誠

主文

1  原判決を左のとおり変更する。

2  被控訴人は控訴人に対し七三三万五〇〇〇円とこれに対する昭和五七年五月一日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。

3  控訴人のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

《省略》

理由

第一売買代金請求(主位的請求)について

1  控訴人は、昭和五六年一〇月七日被控訴人との間でタートルネックシャツ二〇〇〇枚(単価一三八五円)、ワークシャツ五〇四〇枚(単価九一三円)―以下、本件衣料品という―を代金七三七万一五二〇円で被控訴人に売り渡す契約をした旨主張し、被控訴人はこれを争うので検討する。

(一)  原審証人靑山克の証言により後記浜田敏嗣が作成したと認める甲第一号証、《証拠省略》を総合すると次の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

(1) 控訴会社(本社大阪市)は繊維品販売を目的とする会社で(このことは当事者間にも争いがない)、かねてより主として現金卸しの方法でダイエー等に衣料品を卸売りしていたものであるが、昭和五六年八月頃その専務取締役靑山克が知人西山匡之(西山産業株式会社代表者)の紹介で同じく繊維品取引をする株式会社ジムリーガン(本店東京都江戸川区、代表者猪井吉平)を知るようになった結果、右ジムリーガンから七〇〇万円ぐらいの衣料品の注文を受けた。しかし、控訴会社側はジムリーガンとの取引が初めてであること等に鑑みいわゆる現金取引を要求したため、商談は不成立となった。

(2) ところが、ジムリーガンの代表者猪井はそのさい靑山に「それでは、信用のある被控訴会社に直接売る取引をしてはどうか。実は、ジムリーガンはかねてより被控訴会社と取引もありよく知っているので、被控訴会社を紹介したい。」と述べた。そこで、靑山は被控訴会社の知名度等に照らし右取引に乗り気になり、取引成立のあかつきには、謝礼として、その代金額とこれをジムリーガンに売りつけて得べかりし代金額との差額をジムリーガンに支払うことをも約した。

(3) このようにして、靑山がさらに猪井と折衝したところ、猪井は被控訴会社と話し合ったことを当然の前提のようにして靑山に対し被控訴会社と取引する場合の取引品種、数量、単価等を呈示し、これに応じた靑山は同年一〇月六日猪井の言うままに本件衣料品(ただし、ワークシャツは五〇四〇枚ではなく五〇〇〇枚)を大阪から東京都江戸川区に所在するジムリーガンあてに発送するとともに、自らは翌七日西山とともに上京した。

(4) 靑山は同日かねての打合わせどおり被控訴会社本店のあるビル一階の喫茶店「フルーレ」で猪井と落ち合い、やがて被控訴会社の従業員浜田敏嗣もこれに加わり、猪井が浜田を靑山に紹介し、双方は名刺(なお、浜田の名刺には「被控訴会社物資部繊維課主事」の肩書が附せられていた。)を交換し、商談に入った。そのさい、浜田は靑山に対し自社の営業内容を記載したパンフレット等を示すとともに「今、本社の応接室は満室であるからここで取引したい。他にも格安の品があればまた買いたい。」等と述べるかたわら、かねて靑山が猪井からきき、これに従っていた取引条件、品物の発送先等はすべて承知している態度を示し、やがて靑山に被控訴会社専用の注文書(甲第一号証)を交付した。靑山はその記載内容がかねて猪井が述べていた取引条件とほとんど合致していることを確認してこれを受領し、右注文書記載の売買に応じた。

(5) 右注文書は同日付、被控訴会社繊維課作成名義(ただし、肉筆)のもので、下部認印欄三か所のうちの左端欄に浜田の認印があり、宛名は「(株)マック」御中とされており、品名数量金額は「①タートル二〇〇〇枚、二七七万円(単価一三八五円)、②ワークシャツ五〇〇〇枚、四五六万五〇〇〇円(単価九一三円)」、納入期日は「五六年一〇月五日即納」、納入場所は「当社指定(都内倉庫)」、支払条件は「毎月二〇日締切、翌月末日支払(手形一二〇ないし一五〇日サイト)」とそれぞれ記載されていた。

(二)  以上の事実関係によれば、被控訴会社の従業員浜田敏嗣は昭和五六年一〇月七日被控訴会社の名において控訴会社専務取締役(代理人)靑山克との間で前記認定の数量の本件衣料品を代金七三三万五〇〇〇円で買い受ける契約を締結したこと、その代金支払時期はおそくとも昭和五七年四月末日であることが認められ(前記注文書の該当欄の記載によれば、昭和五六年一一月末におそくともその五ヵ月先を支払期日とする手形を交付して支払うことが約されていることが明らかである。)、また、本件衣料品の引渡場所は注文書の該当欄の記載(「当社指定(都内倉庫)」との記載)と「フルーレ」での取引のさい浜田において猪井の靑山に対する予じめの指示(すなわち都内江戸川区のジムリーガンあて送付することの指示)を容認したことからして右ジムリーガン所在地であったと解するのが相当である。

(三)  被控訴人は、右取引における売主は控訴会社すなわち「株式会社マックブラザース」ではなく「株式会社マック」であると主張し、現に靑山は自社を「株式会社マック」と称していたこともあることは前記認定事実(注文書の名宛人が「株式会社マック」となっている点参照)からも推認できるところである。しかし、《証拠省略》によれば、控訴会社は当初自社の商号を「株式会社マック」と称し、または称したいと考え、事実上そのように称することもあったが、同一行政区画内に同一商号の会社が既存していた関係上やむなく正式には「株式会社マックブラザース」と称することになったこと(商法一九条、二〇条参照)、本件取引もその事実上の呼称はともかくその実態はまさに控訴会社の取引にほかならないことが認められるから、被控訴人の前記主張は採用することができない。

(四)  また、後記認定事実によれば、(イ)被控訴会社においてこのような注文取引をする場合には、通常は、前記注文書と同一型式同一内容の「注文請書」を相手方注文先に交付しその記名押印を得たうえ返却を受ける建前をとっていたが、本件取引においては右の建前をとっていないこと、(ロ)注文書の記載についても、被控訴会社名は所定の横長のゴム判により記名のうえ社印を押捺し、その下部認印欄にも他の数名の上司の認印をも押捺するのを通常の建前としていたが、本件取引における注文書は前記のとおり右様式が踏まれていないこと等の事実が認められる。しかし、右のような建前はいずれも被控訴会社側の一方的かつ内部的な業務管理方式にほかならず、相手方注文先との取引(売買契約)が成立したか否かは、専ら個々具体的な当該取引における当事者双方の互いの意思を外部的に判断しこれが一致したか否かによってこれを決すべきであるから、本件取引が前記のように被控訴会社としては通常と異なる取引方法でなされたことだけをもって本件取引(売買契約)の成立を否定することはできない。また、本件取引にさいし青山がこのような点に特段不審の念を抱かなかったことにつき、仮に何らかの不注意または商業取引上の過失を認めるべきであるとしても、そのことによって直ちに前記売買契約成立を左右しなければならない法律上の根拠は見出し難い。

2  次に、控訴人は、前記のように浜田が被控訴会社の名においてした本件取引は、浜田が被控訴会社の取引上の包括代理権を有する使用人としてしたものであるから商法四三条一項に基づき被控訴会社に効果を及ぼす有効な契約であると主張するのに対し、被控訴人は、浜田は被控訴会社の取引にさいしては単に相手方と事実上の折衝をするだけの職責を有していたにすぎず、その地位からしても控訴人主張のような最終的な取引(契約)自体を成立せしめうる包括代理権を有するものではなかったと主張してこれを争うので検討する。

(一)  浜田が本件取引当時被控訴会社の物資部繊維課洋装担当係長の地位にあったことは当事者間に争いがない。

(二)  そこで、当時被控訴会社においては繊維課洋装部担当係長の地位名称を有する従業員に対し本件のような衣料品注文取引をする一般的な権限を与えていたか否かについて考えるに、《証拠省略》、原審証人佐藤精の証言により順次いずれも被控訴会社備付けの売買約定書、注文書、注文請書、取引申請書の各所定用紙であると認められる同第八号証、第九号証の一、二、第一〇号証、第一一号証の一ないし三に《証拠省略》を総合すると次の事実が認められ、他にこの認定事実を左右する証拠はない。

(1) 被控訴会社では、その内部組織および各役職(ことに前記係長)についての分掌ないし分限等に関する規定は特に見当らないのであるが、概括的にいうと商品取引の営業を行う物資部と経理等を行う管理部、社長室等の組織から成っており、それぞれ部長、次長、課長、係長、主事等がこれらに所属して業務を分掌し、上部では社長、副社長、専務取締役(当時佐藤精昭和五七年三月退職。)らが業務を統括していた。

そのうち、浜田の所属していた物資部繊維課洋装担当係は同課和装担当係と並置されており、主として本件衣料品のような洋装繊維製品の買付け転売を担当していたのであるが、当時同部課の直属上司としてこれを統括する佐藤専務取締役は永年の国税庁勤務を経て転職してきたものであり、課長は林部次長が兼任していたのに対し、浜田係長(昭和一五年生)は昭和五四年九月鐘紡から転職してきたもので課内では右業務に最も精通していたこと等もあって、同係業務は、対外的には主として浜田係長(部下一名)がこれを担当し、その交渉から契約成立まで自ら関与して一切の業務を行っていた。また、同係の年商は一二ないし一三億円ぐらいで、当時年商一五億円を社内目標としていた(被控訴会社全体の年商は一〇〇億円前後、そのうち繊維課のそれは約三割五分ないし四割)。

(2) もっとも、浜田係長が売買取引を成立させる場合には、あらかじめ社内所定の取引申請書に内容を記載し、直属上司および管理部担当者の決裁をえ、買付け注文のさいにも少くとも専務取締役、部(次)、課長の決裁認印を受ける建前になっており、その様式も所定の注文書(注文先に交付するもの)、その控え、注文請書(注文先から記名押印を得て被控訴会社側で保管するもの)の三枚一組になった用紙の所定欄に同一内容を記入作成して取引することになっており、注文書には通常管理部で保管している横長のゴム判による社名と名下の社印の押捺をすることおよびその下部認印欄には浜田係長のほか部(次)課長、専務取締役の認印も押捺することになっていた。また、右用紙は管理部が保管していた。しかし、浜田係長の場合、実際上は必らずしもこのような厳格な事前の部内承認をうることなく取引することも時に容認されていた。

(3) なお、浜田係長のした本件取引は、前記のような内部での上司の事前承認を得ることなく、予じめ管理部から数組まとめて受け取っていた注文書用紙中の一枚を利用して自己の一存でなされたものであり、かつ取引は終始猪井と共謀されたものであって、控訴会社からジムリーガンに送付された本件衣料品は猪井により昭和五六年一〇月九日頃にはジャルジョイ東京なる会社を経て株式会社中津商店にダンピング値で転売された(いわゆるバッタ売り)。

(三)  以上の事実関係によれば、浜田係長は、被控訴会社において洋装関係の繊維製品の取引については対外的には被控訴会社を代理して売買契約を締結する一般的な権限を与えられていた使用人であったと解するのが相当で、ことに本件のように七〇〇万円前後の取引についてはその権限を有していたことが明らかである。そして、この帰結は、浜田の地位職名である「物資部繊維課洋装担当係長」なる名称にも適合することからしても裏付けうるところである。また、商法四三条一項は特定受任使用人の例として「番頭」「手代」を挙げているところ、被控訴会社の前記係長なる職名は、少くとも右「手代」には相当すると解するに適しい名称であるということもできる。

そして、浜田係長に原則として課せられていた前記のような上司の事前決裁、所定様式の履践義務等はいずれも浜田係長が前記包括代理権を行使するにさいし被控訴会社内部の手続として必要な制約にすぎないと解すべきである。のみならず、控訴会社代理人青山がこのような制約につき善意であったことも、同人の原審での証言によって明白である。

(四)  そうすると、本件取引(売買契約)は被控訴会社の商法四三条一項所定の包括受任使用人である浜田によってなされた有効な契約であるといわなければならない。

(五)  被控訴人は、右の帰結を否定するため商法四三条二項で準用される同法三八条三項を援用するのであるが、被控訴会社が浜田係長の前記のような種類の対外的な代理権自体について特段の制限を加えた形跡はないのみならず(前記制約は単に内部手続上の制約にすぎないことは先に説示したとおりである。)、控訴会社代理人青山が右制約についても善意であったことも前示のとおりであるから、被控訴人の前記主張は採用することができない。また、右法条の適用につき過失ある善意者を悪意者と同視すべきであるかのようにいう被控訴人の主張は独自の見解であり左袒することができない。

3  次に、被控訴人は、仮に本件売買契約が有効に成立したものであるとしても、被控訴人としては売買目的物である本件衣料品の引渡しを受けていないから代金支払義務はない旨主張するが、控訴会社が昭和五六年一〇月六日本件衣料品を大阪から東京都内のジムリーガンあて発送し、その数日後に到着したこと、および右控訴会社の引渡しが本件売買契約の約定に適合するものであることは先に認定したとおりであるから、被控訴人の前記抗弁は失当である。

4  はたしてそうだとすれば、爾余の判断をなすまでもなく、被控訴人は控訴人に対し控訴人主張の本件売買代金中七三三万五〇〇〇円とこれに対する履行期の翌日である昭和五七年五月一日から支払いずみまで商法所定年六分の割合による遅延損害金を支払う義務があるといわなければならない。そして、控訴人の爾余の主張または予備的請求(民法七一五条所定の損害賠償請求)を検討しても右金額を超える額を認容する余地がないことはその主張自体からして明白である。

第二結論

よって、控訴人の本訴請求は右の限度でこれを認容し、その余は失当として棄却すべきであるから、一部これと異なる趣旨の原判決は変更を免れず、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条但書を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 今富滋 裁判官 畑郁夫 遠藤賢治)

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